相続放棄のやり方と注意点(1)

経営コンサルタントコラム

2016年4月12日

1.放棄の経緯

 

私事ではありますが、病気により父を亡くし、同時に相続が発生しました。

普通に相続する場合、心配するのは相続税かと思いますが、父の場合、手持ちの資産はほぼ無く、相続税の心配はありませんでした。

 

一方、事業を営んでおりましたので、会社借入の連帯保証債務が2億円弱ありまして、しかも期限の利益を喪失している状態であるため、すぐにも返済を迫られている状況でした。

 

とはいえ、各金融機関さんとは話合い済で、サービサーに行ったり、超長期のリスケを組んでもらったりして、ちろちろと返済できる範囲で返済をしている、というところでありました。

 

しかしながら、さすがに不動産など資産を持ちながらの話は、そう悠長な話は行っておられず、不動産市況が多少もどってきたこともあり、担保の実行とのこと(つまりは競売による返済)になりました。

 

居住していた自宅も会社名義であり、かつ、担保に入っていたため、競売により換価し返済に充てられることになり、賃貸住宅への引っ越しなど、検討することを余儀なくされました。

 

手持ち資産がないのも、借入返済によるものです。

資産は生活に必要な最低限のもので、ほぼゼロの状態となっており、事業は営んでいるものの、実際には年金生活の状況でありました。生活費の不足分については、子供たちの支援により、補っておりました。

 

ただ、自宅競売にあたっては、指をくわえて見ていたわけではなく、競売前に任意売却による買戻し等を検討し、話合いも行いましたが、債権者の了解は得られませんでした。

 

その後行われた競売にも札入の形で参加しましたが、自分の許容できる範囲、また経済合理性から鑑みた金額以上の金額で応札がなされ、結果的に自宅を維持することはできませんでした。

 

金額的な開きは、私の算定から1000万円程上でした。あまり高い金額で応札しても、貸家の賃料と比較して優位性がないということもあり、無理な金額では応札しませんでした。

 

ついては、自宅なり実家なりを失うことになりましたが、債権者さんにはその分大きな金額を返済することができましたし、一区切り、という意味でも、結果的によかったと思います。

 

自宅は利益を生むものではありませんので、守りたい一心で、経済合理性のない価格で買い取るのはおすすめしません。

実際、競売後1年程で父は亡くなりましたので、大きな家に母一人、しかも結構な賃料・返済負担という最悪の状況が避けられたのは不幸中の幸いかと思います。

 

自宅のリースバックなどを検討されているかたは、一時の感情に負けず、ぜひ慎重にご判断ください。

 

さて、父の事業については、病気になった時点で、ある程度整理をし、休眠状態としていました。

 

本社も競売により換価され、所在も知人の事務所へ間借り状態にありましたので、そちらも引き払い、事業を停止しました。

 

斯様な状況でありましたので、相続するものは借金だけ、という状況(つまりは債務超過状態)となっていた、ということになります。

 

これを下手に相続してしまうと、即座にウン億円の債務を背負ってしまうことになります。

自分の父が迷惑を掛けたもので何とかしたいところではありますが、さすがに億となるともうこれは手に負えません。

 

なので、相続はしない方が良い、という判断に至り、相続を放棄することになりました。

 

2.相続の方法は3つ

 

このような経緯で、相続を放棄する、ことになったわけですが、ただしく言うと、放棄という選択をした、ということになります。

 

すなわち、相続の方法はいろいろあるということです。

 

実は相続には単純相続、限定相続、相続放棄の3つの方法があります。

それぞれの特徴は裁判所の資料を見ると、以下のような感じです。

 

・単純相続

相続人が被相続人(亡くなった方)の土地の所有権等の権利や借金等の義務をすべて受け継ぐ

・相続放棄

相続人が被相続人の権利や義務を一切受け継がない

・限定相続

被相続人の債務がどの程度あるか不明であり,財産が残る可能性もある場合等に,相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぐ

 

普通、相続というと一番上の単純相続が一般的です。

基本的に何もしなければ、単純相続になります、というかなっちゃいます。

なので、たとえ相続したくないと思っていても、何もしなければ自動的に相続したことになってしまいます。

 

言い換えると、放棄、という制度をしらなければ、どでかい借金を背負うことになるかもしれないのです。

自分で調べない限りは誰か言ってくれるわけではありませんから、やっかいです。

知らぬが仏とはいいますが、こればっかりは知らぬが地獄ですね。

 

個人的には、債務超過の場合の相続は、原則単純相続しない、とした方がよろしいかな、と思います。民法改正のタイミングですから、議員の先生には、負の連鎖を生み出さないためにご尽力いただければと思っています。

 

さて、私の場合は相続すべき資産もないし、債務の額もはっきりしているので、相続放棄を選択した、ということになります。

 

残る限定相続ですが、こちらは上に書いてありますとおり、相続する資産の範囲で債務を引き継ぐ格好です。つまりはプラマイゼロ、の方式ですね。

 

放棄は結局だれも相続人がいない、という状況を作ることになりますので、血縁としては、ちょっと寂しい部分もあるんですよね。親父はこの世の誰にも相続されないのかぁ。。という無常観といいますか。まあ仕方ないんですが。

 

限定相続であれば、一応相続は相続なので、そういったモヤモヤ感はぬぐえますし、相続人がいるとなにかと引き継ぐ手続きが楽でよろしい、ということがあります。

 

ただ問題なのは手続きの煩雑さ。放棄は放棄したい人が申述書を書いて出せばよいだけのすごく簡易な手続きなのですが、限定相続は、まず、相続人全員が共同して申述しなければならないんです。連絡つかないような人が一人でもいたらできません。

 

また、申述書を出して受理してもらうことまでは同じなのですが、そのあと、清算手続きをやらないといけません。もうきちんと裁判なんですね。

破産とかと変わりません。資産調べて、負債調べて、、という手続きをしていくことになります。

 

となるともう仕事の片手間でやるには手続きが重すぎて、弁護士さんお願い、という感じになります。となると、費用もそれなりにかかりますし、とにかく時間が掛かる。

 

こういう相続とかって早く納めたいですからね。あまり長くかかるのはキツイ。

私の場合は、いつまでも亡くなった人の始末を引きずっていたくない、という気持ちがどうしてもありましたね。やはり近親を亡くすのはつらいことですし、いつまでもそこにモヤモヤしてるのは精神衛生上よろしくない気がしました。

 

債務超過で資産がなければ、相続放棄も限定相続も何も引き継がないという点では同じではあるのですが、かような手続きの違いもあり、放棄を選択した、というわけです。

 

(つづく)