経営者保証ガイドラインで何が変わったか

経営コンサルタントコラム

2014年9月12日号

経営者保証に関するガイドライン、というものが経営者保証に関するガイドライン研究会によりとりまとめられ、昨年末12月5日に公表されました。


経営者保証に関するガイドライン研究会というのは、行政当局関与の下(日本商工会議所と全国銀行協会が共同して)設けられた、ガイドライン策定のための有識者会議です。


行政当局関与の下、ということですので、このガイドラインが策定・公表されたということは、行政当局の監督・所轄下にある銀行等はこのガイドラインを無視することが難しくなります。さらに言えば、全国銀行協会が策定に関わっている体となっている以上、銀行が自ら策定したこのガイドラインに従わない、ということはあり得ない構造となっています。


政策上の重要度という意味でも、安倍内閣で示された日本再興戦略において、新事業を創出し、開・廃業率10%台を目指すための施策として、当該ガイドラインがあげられていることからも、重要性がわかります。


さて、このガイドラインが平成26年2月1日から適用になりました。


適用に際して、金融機関等によるガイドラインの積極活用を促したい金融庁は早速、金融機関に対する監督指針と金融検査マニュアルをこのガイドラインに合うよう変更しました。


この監督指針と金融検査マニュアルというのは、金融庁が管轄下の金融機関を監督したり検査したりする際の、文字通り、指針でありマニュアルです。


銀行などの金融業務は許認可業務です。金融業をするなら金融庁の許可を得なければなりません。その許可を取り消すことができるのもまた金融庁です。ですので、この監督指針と金融検査マニュアルは、金融の仕事をする上では外せないものです。たまにろくすっぽわかっていない、勉強不足の行員がいたりすることもありますが、こういう輩はその銀行にとって相当なリスクですね(苦笑)。


さて、この変更になったガイドライン等を見てわかることは、


●既存の保証を外すのは難しい

●事業承継時に保証を引き継ぐのは変わらない

●個人保証のない融資は当面無い

●生計費や華美でない自宅は残せる可能性はある

●経営者交代を一律形式的に強制しない

●何につけ、公私の別、適正な情報開示が求められている


といったところ。


個人保証は事業再生や起業に際してネックとなっているのは確かです。個人保証の融資慣行を無くすため、金融機関に対しては個人保証に頼らない新たな融資手法が求められています。反面、中小企業経営者の側にも財務状況の正確な把握や公私の区別、資料の策定などが求められています。


しかし、財務状況がいくらきちんと把握できていて、しっかりと開示されたとしてもどこまでそれを信ずるか、というのは難しいところでしょう。表明保証に適正性を付与といっても、付与した支援専門家を貸し手はどこまで信頼するのでしょうか?


中小企業は100%株主兼社長という所有と経営が分離されていないことが多いため、そもそもガバナンスが効いていない状態となっています。税理士等の支援専門家と呼ばれる人もどこまで自分を雇ってくれているワンマン社長に物申すことができるでしょう?個人保証についてはそう簡単には無くならないでしょうね。


再生時の保証債務返済については、画期的な指針が示されました。


自宅を残せるというのは事業再生にとって非常に(特に地方では)プラスです。

とはいえ、現在でも再生計画を認めていただければ、期限の利益を喪失した状況にはなりません。ついては、保証債務の履行を求められることもない状況です。

ということは、このガイドラインが適用されても、実務上の対応はあまり変わらないことになります。


一方、廃業時の保証履行に関しては特段の記載はありませんでした。

再生が困難な企業に関する経営者保証についても、残存資産をこのガイドラインと同様に認めていただけると企業のライフサイクルが正常に回転し、新陳代謝が高まることに繋がると考えます。団塊起業世代が引退のタイミングにある昨今、行政の皆様にはぜひ検討していただきたいところですね。